赤ちゃんコーナーと化す車内。

7時起床。
派手に寝違えてしまい肩から上のすべてが痛い。
今年に入ってからというもの、枕に頭を乗せて寝ていない。その代わりに、枕を身体の横に縦に置いて、それに抱きつくような体制で寝ている。抱き枕ですべきことを普通の枕でやってるんですよね。

半年くらいずっとこの調子。枕を抱いて寝ると、誰かと添い寝しているような気持ちになり、安心して寝ることができる。最近は枕にヘコヘコと股間を押し付けたり、抱きついて目を瞑っている間本当にこれは俺の恋人なのではないかと思い込み、細かいプロフィールを考えたりと、枕に対する欲望が徐々にエスカレートしつつある。
と、ここで皆さんに僕のガールフレンドを紹介したい。

彼女はヴェラ・メグレ(Vera Mégret)、名前の通りフランス系の生まれで、24歳、普段はバーテンダーとして働いている。金髪のショートヘアがよく似合う。趣味は酒と映画観賞、お気にいりはエターナル・サンシャインとクルーレス、世界中から輸入されたビールをよく買って飲んでいる。いつもぶっきらぼうで、寝てる途中に小さくいびきをかいたりもするけれど、なんだかんだで俺と寝てくれるいいひとです。
まぁ今書いたプロフィールもペルソナのひとつに過ぎず、場合によってこの枕はマデリン・フレモンズとかいう女性、ラテン系のステラ・マラキアスちゃん、ベトナム人ハーフのグエン香(かおり)さんとかにもなったりするわけだけど、この手の妄想をずっと続けているとその内頭がどうにかなりそうで、少し不安ですね。

目を覚まして首の痛みと格闘しながらカーテンを開けたが、昨夜は窓を開け、電気を付けたまま寝落ちしてしまったせいで、窓辺に動かない小さな虫が7~8匹転がっていた。なんだか癪に障ったので、一匹ずつつまんでティッシュにまとめて包み、トイレまで持って行って便器の中に散らし、死骸の浮かぶ溜水面めがけてそのまま用を足した。小便の圧力で脚や羽の取れた虫もいた。
朝食は食パンに、以前俺が食べたいと話し、スーパーで90円で売られていたからとママが買ってきた謎のインド産ピーナッツバターを塗って食べた。

ママは何を頼んでも安物を買ってくる。「シリアルを買ってくれ」とリクエストしても、50円かそこらの値段安いとかいう理由で、ケロッグのコーンフロスティではなく日清のシスコーンをかごに入れる。シスコーンはケロッグの1億倍クソ不味いから、次は必ずケロッグを買ってこい、と何度も念を押してきたにもかかわらず。おちょくってるんですかね、マジで。俺が50円を出してやらない限り、おそらく永久にママがケロッグを用意することはないのだと思う。案の定このピーナッツバターも、「適当なピーナッツバターではなくSKIPPYを買えと指示しておくべきだった」と後悔したくなるような味だった。

昼は髪を切る予約があったので、久々に地下鉄へ乗った。学校へ行かなくなってからはほとんど乗っていない。
この美容院はママもずっとお世話になっているらしく、美容師さんのひとりとは10年以上の付き合いがあるらしい。俺もいつもその人に担当してもらっている。いやー、夏本番ですね、いよいよ、と話しかけると、「そうですねー、蒸し暑くなってきて嫌ですねー」と返事があり、次に、「今日は学校無いんですか?」と。今まで予約はいつも土日だったので疑問だったのだろう。あぁ、今日休みなんスよ、と返し、夏の予定やら何やらについて適当に会話しながら用事を済ませた。
ここまでは順調だったのだが、帰りの地下鉄で、泣き叫ぶ赤ちゃんとそれをあやすお母さんの親子連れが車両に入ってきた。
俺は2024年の夏ごろから、親子や育児、子供時代を連想させるようなものを見聞きすると突然、正直言って自分でも説明が難しいのだけど、なにか驚くほど鋭利なもので胸を刺されるような、悲しいとも悔しいとも怖いともつかないがとにかく精神へイヤな影響を与えてきそうな負の感情の波に襲われるようになった。例を挙げると、この直前、駅のホームにアンパンマンのJAこども共済の広告が掲載されていたが、アレもだいぶ精神を削られる。個人的にアンパンマンのイラストを公共の場に掲載することはテロ同然だと思っているので、一刻も早く撤去してほしいものです、
2024年の夏を境に俺と両親の仲が急激に悪化していったせいかは知らんが、初めてこの体質を自覚したのがドン・キホーテのベビー用品売り場であったことから、仲間内でこれを赤ちゃんコーナー症候群と呼んでいる。ネタと取られかねない症名だが、俺自身は割と深刻な問題だと思っていて、詳しい考察は別の記事へ回すことにする。
そんなわけで、赤ちゃんの喚き声が耳に入ってきて、さっそく気分が悪くなってきた。音楽でも流してかき消そうと思い、イヤホンを付けてお手製のプレイリストをシャッフル再生すると、The KnifeのWithout You My Life Would Be Boringという曲が流れた。これがいけなかった。

Shaking the Habitualは名盤!

うるさい地下鉄の走行音がイヤホンを貫通してゴーーーーっと音楽と赤ん坊が聞こえる上へ覆いかぶさり、言わば糊のような役目を果たして、赤ん坊と音楽の二つを繋ぎ合わせてしまった。この時期の地下鉄って窓を開けて走るから走行音がダイレクトに入ってくるんですよね。カリン・ドレイヤーと赤ん坊の声が一体化して、この病気になったビョークのような歌声がカリンのものか赤ん坊のものかよくわからず余計気分が悪くなり、曲が終盤に差し掛かる頃には車両のノイズすら巨大な幼児が泣き叫んでいるように聞こえてきて、本気で軽く吐き気すら覚えたので、目的の駅から4つ離れていたが停車した瞬間に降りた。
その後は何事もなく帰りました。晩御飯はサッポロ一番塩ラーメンだった。