この記事はシリーズ物です.

 

 計算機は,現代における我々の生活に欠かせない必需品ですね.コンピュータでゲームをしたり,SNSをしたり,もっぱら娯楽目的で用いられることが多いと思います.

しかし計算機本来の役割とは,元々自然現象のふるまいを数式として記述し,それを解くための装置でありました.

例えば,軍事的な用途として砲弾の弾道計算などが挙げられますが,戦局が刻一刻と変化していくさなかで,紙と鉛筆を用いて1つひとつ計算していくのは現実的ではありません.またディジタル計算機が十分に高速化する以前の時代においては,連続量をそのまま電圧や電流に対応させて,アナログ的に計算をさせることのできる装置が不可欠でした.

 

本シリーズでは,オペアンプを用いた回路によってアナログコンピュータを作成(シミュレート)し,その実用例として先ほど挙げた,弾道計算器を組んでみましょう.

厳密な原理等には触れないつもりなので,肩の力を抜いて,楽しみましょう.

1. ディジタルとアナログ

前提知識として,まずこの2つの違いを理解しておく必要があります(新しい物と古い物と言う意味ではありません).

ディジタルとアナログ と聞いて,大半の方が真っ先に思いつくのは時計ではないでしょうか?

fig1. ディジタル時計の例 (イラストや)

ディジタル時計は表示がある一定間隔でのみ動く.対してアナログ時計は,針が止まる事なくスムーズに動作する.それぞれの動作を離散的であったり連続的と表現しますね.

今回作製するアナログコンピュータは,まさしくこの連続性に着目した装置となります.

何でも良いので,何かしらの自然現象を考えてください.私はボールの投擲を考えることにします.投げたボールの動きは,ある間隔で瞬間移動するわけではないので,当然離散的ではなく連続的です.

この時ボールの軌道は微分可能なので,冒頭で述べた「自然現象のふるまいを数式として~~」というのは,すなわち微分方程式を解くという事になります.

この連続的な事象を処理するのに,連続的な演算を行うアナログ計算機は大変都合が良いのです.

  

2. アナログ計算機の歴史

ざっくりと話します.

最初のアナログ計算機は,紀元前150年前に作られたと推定されるアンティキティラ島の機械とされていますが,明確に存在が確認されているのは16世紀前半の計算尺と言われています.

fig2. 計算尺の画像

どちらも機械式アナログ計算機として分類され,歯車やカムや滑車,ディスクで演算を行います.

中でも有名なのが微分解析機で,ディスクやカムを多く用いた大規模な機械によって微分方程式を解きます:

しかし物理的な摩擦があるし,組み立て誤差が直接精度に関わってきますから,少しめんどいです.それを改善するために,電気式な計算機が考案されました(有名なリレー式計算機もその一部ですが,ディジタル値を用いた論理演算であり,微分方程式の解を求めるのには向きません).真空管,ひいてはトランジスタを用いて,電気を値として扱う計算機が考案されました.

しかし,(真空管やトランジスタの増幅回路を触ったことのある方なら分かると思いますが)バイアス調整が苦行であったり,温度依存があったり,多くの回路定数を定める必要があったりと,とにかく職人業が必要な装置でした.

そこでトランジスタを用いた回路として,オペアンプ(OPerational Amp.)という増幅回路が考案されました.

fig3. オペアンプ等価回路図 (新日本無線 NJM4558)

3. オペアンプの動作

オペアンプは通常,fig3を省略した形として,以下の記号で示されます.

fig4. オペアンプ回路記号

このような簡易的な記号を用いることで,演算回路を極めて単純な形で示す事が出来ます.

オペアンプの特徴として,以下のようなものがあります(理想オペアンプの場合):

1.入力インピーダンスが無限大,入力電流が0

2.出力インピーダンスが0

3.増幅率が無限大

4.増幅率は周波数に依らず一定

 

また重要な要素の1つとして,仮想短絡(イマジナリ・ショート)という物があります.反転入力(ー入力)と非反転入力(+入力)との電位が等しくなるというものです.

それらを踏まえて,さっそく基本的な演算回路を見ていきましょう:

反転増幅回路

以下の形で示される回路のことを,反転増幅回路と呼びます:

fig5. 反転増幅回路図

「反転」増幅ですから,入力電圧に対して,出力電圧の符号が反転します(信号の位相が180度ズレます).

ここで,理想オペアンプとして出力電圧vov_oを導出してみましょう.理想オペアンプの特徴1より,入力インピーダンスが無限大であることを踏まえると,電流iiは単にRfR_fを経由するルートを辿ることとなります.

また抵抗RfR_fに掛かる電圧VRfVR_f​​は,電圧則より以下のようになります.

VRf=vvoVR_f​​=v_−​−v_o​

ここで,仮想短絡よりv=v+v_-=v_+であり,v+v_+は接地されていますから,

v+=0v_+=0

 

VRf=0vo=voVR_f​​=0−v_o​=-v_o

となり,出力が反転することが分かります.またvov_oRfR_fにおける電圧降下が互いに等しいことが分かるため,出力電圧は

vo=Rfiv_o=-R_fi

で導出できることが分かります.

ここで電流i=v1/Rii=v_1/R_iですから,最終的に

vo=Rf(vi/Ri)=(Rf/Ri)viv_o=-R_f(v_i/R_i)=-(R_f/R_i)v_i

と示されます.

また増幅回路における利得GGvo/viv_o/v_iで示され,なおかつRfR_fRiR_iに流れる電流が等しいことを踏まえると,

vi/Ri=vo/Rfv_i/R_i=-v_o/R_f

  

vo/vi=G=Rf/Riv_o/v_i=G=-R_f/R_i

となり,電圧利得はRf/Ri-R_f/R_iという簡単な式で導出する事が出来ます.

とにかく,出力電圧vo=Rfiv_o=-R_fiという事を覚えてください.

 

非反転増幅回路

以下の形で示される回路のことを,反転増幅回路に対して,非反転増幅回路と呼びます:

fig6. 非反転増幅回路図

ここで,分圧則より

vi=(R2/R1+R2)vov_i=(R_2/R_1+R_2)v_o

となりますから,これを変形して出力電圧vov_o

vo=(1+R1/R2)viv_o=(1+R_1/R_2)v_i

となります.

入力電圧viv_iの符号と等しいため,非反転増幅となります.以降の演算回路は,この反転増幅回路と非反転増幅回路の2つがベースとなります.

次回は,いよいよ本格的に演算回路の解析に進んで行きます.