前回はこちら
前回解説したフーリエ展開について,実数を用いることから,実フーリエ展開と呼称します.
実フーリエ変換に対して,オイラーの公式に依って複素数を導入したフーリエ展開を複素フーリエ展開と呼びます.
今回は,主に複素フーリエ展開について解説し,フーリエ変換への導入としたいと思います.
1. オイラーの公式
高校数学で用いた,オイラーの公式を思い出しましょう.虚数単位をとすれば,以下が成り立ちます:
これをおよびについて解けば,以下のようになります.
2. 実フーリエ展開からの遷移
さて,前回解説した通り,実フーリエ展開は以下で示されます:
ここでとして,オイラーの公式から導出される三角関数を代入してみましょう.
これをで整理すれば,
となります(を用いた).
ここで,およびに掛かる係数をそれぞれA, Bとして見てみましょう.
をA, Bにそれぞれ分配してみると,
となります.ここで,Bに掛けられるについて,Bにおけるは負の累乗であるから,負値の範囲における演算と置きましょう.そうすればの累乗における符号が揃うので,扱いやすそうです.
よって,
となります.すなわち,変数が:
・負であれば,
・0であれば
・正であれば
の項が用いられるわけです.変数が~まで連続的であること,全ての項がの係数であることを踏まえて,これらをある1つの変数としてまとめてしまえば,より扱いやすい形になりそうです.
この”ある1つの変数”をとして考えてみましょう.
について定義すれば,上記より
となり,複素フーリエ展開式は
から,
という形でまとめられます.簡単ですね,符号を揃えたり,係数でまとめた甲斐が在りました.
3.ここまでのまとめ:フーリエ展開を実践
任意の信号は,全て正弦波の足し合わせで表されます.フーリエ変換およびフーリエ展開は,その信号から,どの周波数の正弦波(周波数成分)が含まれているのかを取り出すための演算であり,特にフーリエ展開は周期信号における周波数成分を取り出します.この操作によって取り出された周波数成分を可視化したものを,周波数スペクトルと言います(fig.1).
fig.1 フーリエ変換のイメージ図 (AllElectroHub)
フーリエ展開は周期信号が対象です.周期信号とは,
こんな波形だったり,
こんな波形だったり,
こんな波形を示す信号を指します.ようは一定周期で同じ波形を繰り返す信号を周期信号と言います(これらのように,綺麗な形のものばかりではありませんが).
今まで学習した実フーリエ展開,および複素フーリエ展開によって,今回は矩形波(一番下の四角形の波,くけいは)の周波数成分を求めてみましょう.電子回路において用いられる場面が多いですからね.
3.1. 実フーリエ展開で求める
周期の,ある矩形波の信号を考えます(fig.2).
fig.2 信号の概形
この信号は,以下のように定義されますね.
また何度も貼りますが,信号の実フーリエ展開は,以下のように求められます.
ここに含まれる係数を求めれば,周波数成分が求められますね.
前回求めた通り,は以下のように求められます:
明らかに信号の平均値(直流成分)を示します.定義より,計算するまでもなく平均は0となりますから,
となります.
また同様に,は
です.定義より,積分区間は2つに分割すべきです:
後半の積分区間は負値なので,差分を取るような形となります.
まずを積分すればになりますね.また
であって,変形すれば
となりますね.
ここで,各区間について考えてみると:
・のとき
・のとき
ここで,より
・のとき
以上より,全ての区間で0となることから,係数の成分も全て0であることが分かります.すなわちの,偶関数の成分が0であることが分かります.
信号の波形から,明らかに奇関数ですから,妥当な結果となります.
最後に,係数について求めましょう.今までの結果から,おそらく非ゼロの値が出て来るはずです.
は,以下のようになりますね:
の際と同様,2つの積分で考えます:
普通に積分をしていくと,
とすると,
ここで,
となるから,
整理して,
となります.
ここで,が偶数であるなら,計算せずともであることが分かります().
またが奇数であるなら,
となります.
以上の結果をまとめると,
となり,奇数倍の波成分が無限個現れることになります.
すなわち,最終的に信号をフーリエ展開した結果,
と表されます.
この結果を,周波数スペクトルという形で可視化してみましょう(fig.3)
fig.3 矩形波の周波数スペクトル
上記の計算通り,奇数倍の高調波にのみ,成分が現れていることが分かります.第一高調波が最大となり,そこから指数関数的に振幅が減衰していくことも読み取れます.
また,この成分の正弦波を順に足し合わせていくと,だんだんと矩形波の形が現れることが分かります(fig.4).なお,級数展開なので,有限回足し合わせても,矩形波が現れることはありません.
fig.4 波の足し合わせ
以上から,実フーリエ展開を用いて,適切に矩形波の周波数成分を求めることができました.
なお,fig.4におけるn=1~15あたりで特に顕著になる,ツノのような両サイドの出っ張りは,ギブス現象によるものであり,無限回足し合わせても,必ず元の波形の9%の飛び出しが発生します.
3.2. 複素フーリエ展開で求める
3.1.において用いた信号を用います:
複素フーリエ変換は以下のように求められました:
積分区間を分割します.
ここでを用いると,
またであるから,定数を括り出して
また,
より,
整理して,
となります.実フーリエ展開の際と同様,が偶数であれば,となります.
また奇数であれば,
となるから,最終的に
となります.fig.3と同様のスペクトルを示しそうですね.念のため確認してみましょう(fig.5).
fig.5 複素フーリエ展開の周波数スペクトル
確かに奇数次の高調波にのみスペクトルが現れています.が,負値にもスペクトルが表れている事が分かります.の範囲が~であるから.と言えばそうなんですが,オイラーの公式より,三角関数は以下のように示されましたよね.
それぞれにおよびの項が含まれており,ようは反時計周りと時計回りの両方の成分が含まれることになります(fig.7).
fig.7 複素平面における回転により正弦波が作られる.(Wirelesspi.com)
仮に反時計回り(正値)の成分のみであった場合,値は常に虚数となります.それでは現実世界に作用しませんから,逆回転の負値を用意することで,虚数成分を打ち消し合い,実数のみを残します.
それにより,複素フーリエ展開では,正負両側にスペクトルが現れます.
今回はここまでとなります.次回は,いよいよフーリエ変換とDSP(:Digital Signal Processing,ディジタル信号処理)について触れて行こうと思います.